ついに、予定していた3ヶ月が経った。
スマホのカレンダーアプリに入力された、ケーキの絵文字。
今日は、真希にとって運命の日──付き合って5年になる彼氏・慎二の、30歳の誕生日なのだ。
心臓は、今にも口から飛び出してきそうなほどバクバクと高鳴っている。
真希は両手でぎゅっと胸を押さえつけるようにしながら、鏡の前で思い出のワンピースを体にあてた。
― 今日、私…。このワンピースを着て、慎二に逆プロポーズするんだ。
大学時代に同じゼミで青春時代を過ごした慎二とは、卒業してからふとしたきっかけで付き合うことになり、付き合って5年、同棲して3年。
30歳になる今までずっと、慎二は変わらず真希を大切にしてくれている。それでも真希はどうしても、今のままでは満足できないのだ。
「変わらない」だけでは、足りない。
もっと慎二に愛されたい。
“結婚”という名の、永遠が欲しい…。
心の底から強く願いながら、真希はもう一度、鏡の中の自分を見つめる。
― 私、欲張ってる?もしも、もしも、プロポーズが受け入れてもらえなかったら…?
その時のことを考えるだけで、怖くて崩れ落ちそうになる。けれど、この3ヶ月の間、最大限の努力はしてきたのだ。あとはもう、自分を信じてあげるしかなかった。
「…時間だ」
「メズム東京、オートグラフ コレクション」にあるレストラン『Chef’s Theatre』の予約時間が迫っていた。
ー 今日、人生が大きく変わるかもしれない。
真希は大きくひとつため息をつくと、祈るような気持ちで、思い出のワンピースに袖を通した。
こんな決意をするに至った、3ヶ月前のことを思い返しながら──。