3ヶ月後、慎二の誕生日当日

「慎二、30歳のお誕生日おめでとう!」

「ありがとう、真希」

慎二の30歳を祝うために真希が予約したのは、できた当初からふたりで行きたいねと言っていた、「メズム東京、オートグラフ コレクション」にある『Chef’s Theatre』。16階から浜離宮庭園、個室からは東京湾を一望できるレストランだ。

コースが終わり、デザートが出され、コーヒーを飲み…、ゆっくりと会話を楽しんでいる途中で、真希は大きく深呼吸をする。

そして、少し怪訝な表情を浮かべる慎二に、真剣な表情を向けて言った。

「あのね、慎二。伝えたいことがあるの」

「なに?急に真面目な顔して」

「慎二。私、ずっと慎二のそばにいたい。私と、結婚してください」

「え、ええ…?」

慎二の顔が、にわかに曇る。

その顔を見て、真希の心臓がドクンと跳ね上がった。

― これは、ダメってこと…?

けれど、少しの間を置いて慎二が言った言葉は──ぎゅっと目をつぶった真希の、まったく想像もしていないような内容だった。

「マジで…?うわぁ…。来月、俺の方からプロポーズする予定だったのに…!」

「え…?慎二が、私にプロポーズ?」

「あ〜、サプライズに時間かけすぎた…ほんとダサいな俺。ごめんな…」

「じゃ、じゃあ…返事はOKってこと?」

「それは、当たり前だろ。絶対俺の方が真希と結婚したいから!あ〜でも、悔しいな〜!」

慎二の言葉を聞いて、喜びと安堵の気持ちが溢れ出す。それと同時に、胸が熱くなり、視界が潤む。

「よかった…!」

「真希、愛してるよ。そのワンピース、俺が昔プレゼントしたやつだよね?なんか、前よりもずっと似合ってる…」

どちらからともなく、真希と慎二はテーブルの上で手を握り合う。

「かたぎり塾」でのダイエットは、無事成功していた。

差し伸べた真希のその腕はほっそりとしていて、真希は今、あの頃よりも綺麗に思い出のワンピースを着こなしているのだった。

真希のすっきりとした頬を伝う涙を指先で拭ってあげながら、慎二が尋ねる。

「でも、なんで真希の方からプロポーズしてくれたの?俺の方からするとは思わなかった?」

「だって…。慎二が大好きだから、絶対誰にも譲りたくなかったの。このまま瑞穂に取られるのは、絶対に嫌だったの」

大好きな慎二と、結婚できるのだ。瑞穂への少しの目移りは、大目に見るつもりだった。

けれど慎二は、返事の代わりに眉間に皺を寄せながらすっとんきょうな声を上げた。

「瑞穂…?ああ、瑞穂のこと!?うわ、誤解させてたらごめん。

前にバッタリ瑞穂と会った時のことなら、ゼミのみんなにサプライズプロポーズの手伝いをしてもらってるだけだからね!」

話を聞けば慎二は、年末に控えた交際6年記念日に、ゼミのメンバーの協力も得て、真希にプロポーズする予定だったという。そのための連絡を、顔の広い瑞穂がこっそり手伝ってくれているのだそうだ。

「そうだったんだ…!私てっきり、私が太っちゃったから、慎二は他の子に目移りしちゃったのかと…」

とんでもない勘違いをしていたことに、真希は思わず顔を歪める。慎二はクスッと笑いながら、真希に優しい眼差しを向けた。

「まさか!どんな体型だって、真希のことが大好きだよ。でも、まあ、うん。確かに真希、最近綺麗になったから…。

実は俺の方も、気が気じゃなかったんだ。このまま誰かに取られちゃうんじゃないかって、不安だった」

「まさか!私には、慎二だけだよ!!」

「俺だって同じだよ」

言葉が途切れて、視線だけがふたりを結んだ。少しの沈黙のあと、恥ずかしそうに慎二が言葉を紡ぐ。

「ねえ、真希。やっぱり俺の方からももう一度、プロポーズさせてもらってもいいかな?」

「うん、もちろん!」

幸福にきらめく目の前の光景は、3ヶ月前の真希の誕生日の時とはまったく違う。

ふと真希は、ようやく大切なことを理解できたような気がした。

― 慎二との関係は変わってないのに、私いま、すごく幸せ。…そうか。だれかの愛を信じるためには、まず自分自身を愛してあげることが大事だったんだ…。

逆プロポーズから、さらに3ヶ月後。

すっかりスリムなボディラインを手に入れた真希は、今日も会社帰りに「かたぎり塾」へと向かっていた。

目的を達成したあとも「かたぎり塾」を続けている理由は、体を動かすことが習慣になったからだ。

3ヶ月以上運動を続けていることで、体調がこの上なく良いことはもちろん、心までポジティブになれているような気がする。

卑屈にならなくなったことで、瑞穂と話す機会も持つことができた。

瑞穂は瑞穂で、現在婚約中なのだという。今では真希とプレ花嫁同士、時おり「かたぎり塾」のペアトレに来る仲になれた。お互い結婚式のためにダイエット中だが、医師がトレーニングのメニューを監修していることで、安心してジム通いを続けられる。

もちろん慎二との仲の良さも、5年間の付き合いの中で最高潮だ。

友情も恋愛もプライベートがうまくいくようになったことで、仕事の効率まで上がったのは、真希にとっては嬉しい誤算だった。

今日も予定していた残業がなくなったため、アプリでトレーニングの予定を繰り上げながら、真希はしみじみと感じる。

― 自信がつくことって、本当に大切なことなんだなぁ。

「かたぎり塾」は、このままずっと続けるつもりだ。

ついに来月に迫った慎二からのプロポーズの時には、もっと綺麗になっていたい。

ウエディングの時にももちろん綺麗でいたいし、結婚生活が始まった後も、いつまでも綺麗な妻でいたい。

ダイエットに成功した後も、「かたぎり塾」に通えば、理想の自分でいられるし、慎二とも素敵な生活を送ることができそうだ。

このままもっと自分を好きになって、慎二のことも、もっともっと好きになりたい。

「こんにちはー!」

たどり着いた「かたぎり塾」の扉を開けながら、真希は思う。

― 今度、慎二を誘って「ペアプラン」にしようかな?

長い人生だ。ずっと元気に、幸せを感じられる自分でいたい。

そしてその隣にはいつまでも、大好きな人に居てほしいから──。

Fin.

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